【そろばん教室:社長インタビュー】株式会社 イシド 様【経営戦略】

株式会社イシド 代表取締役会長 石戸 謙一 氏  / 代表取締役社長 沼田 紀代美 氏

 

1973年に千葉県白井市にそろばん塾を創業。今年創業40年。
現在、石戸珠算学園の直営教室は29教室、生徒数3600人。いしど式グループ加盟教室は全国に120を数え、生徒数は1万人を超える。

【斜陽といわれたそろばん教室】

犬塚:
スクール・教室業界の一般的な水準値から見ると、子供・幼児向けの学習教室は、一教室あたり50名前後の生徒数が一般的です。
石戸珠算学園は一つの企業で直営店ベースで29教室、一教室あたりの生徒数が100名を超えていますから、業界の平均値の倍の生徒を確保されていますね。教室業界というのは職人異質で、技術面などにおいて先生に依存してしまうのが多いなか、このように全国に広まるのは稀です。

生徒だけでなく先生も育てていく仕組みづくりをし、いしど式そろばんを日本全国に広めていらっしゃいます。
そろばんは一時期、衰退に向かっていき、ピーク時からするとかなり教室も減りました。このように市場が縮小する業界は多いと思いますが、そんな中でどう生き残ったのか、皆さんそこに興味をお持ちではないかと思います。

石戸会長:
斜陽産業になるには様々な要因があると思います。そろばん業界では、少子化やOA機器の普及、学校教育からの衰退などがいえます。
私がそろばん教室を初めて5、6年経った頃、この業界は下り坂に入っていきました。さてどうしようかと考えた時、他の業界を見渡して、どんな業界でもナンバー1、ナンバー2は必ず残るという例をいくつか見ました。ほかのそろばん教室があれこれ違う業種に手を出した時に、よし!専門化してしまおうと。そうすれば、そろばんに関しては、いしどはナンバー1だと。極めていけば、いつか生き残れるのではないかというふうに思いました。
そんな折に、異業種交流会でスポーツ業界の方と知り合う機会がありました。いろいろ聞くなかで、スポーツ選手が行なっているイメージトレーニングをそろばんの中に取り入れてみたらどうかと。試行錯誤を重ねていき、今のいしど式になりました

【能力開発だけでなく しつけも身につける】
石戸会長:
世の中は少子化で、親は子供の教育に熱心な時代です。そろばんをそろばん教室としてだけでなく、基本的な能力開発だと位置づけました。そろばんは小学校3年生ぐらいから習い始めるのが一般的ですが、能力開発ですから早い方がいいと。まず幼児教育に力を入れたということです。

犬塚:
私も教室で授業風景を見ていて、やはり驚いたのは、幼稚園児がピシッと集中して問題を解いている姿ですね。そろばんを使わずに4ケタ×2ケタ、3ケタの掛け算や割り算を、素早く解いていきますよね。幼児があそこまでできるというのに驚きました。
スタート当初から、ここまで結果が出ると確信を持っていらしたのですか?それとも手さぐりで進まれたのでしょうか。

石戸会長:
まず私自身がイメージトレーニングの勉強をする必要がありましたから、最初は手探りでした。実際に取り入れてからは、それまで5ケタぐらいの計算が精いっぱいだった子供たちが、あっという間にその壁を突破して7ケタまでできるようになりました。これはいけるぞと。ですから私が特別に素晴らしい力を持っていたということではなく、とにかくやってみようと新しいことを取り入れた結果だと思います。

犬塚:
いしど式そろばん教室が、そろばん技術だけでなく保護者の方々から評価されている点に「しつけ」がありますね。家では落ち着きのない子供が、教室に行くと集中して勉強に取り組んでいると。このあたりはいかがですか?

石戸会長:
そうですね。学校では学年で区切って教育を行いますよね。しかしそろばん教室では学年はほとんど関係なく、一つの教室の中に幼稚園の生徒もいれば、時には中学生もいると。こういう環境ですから、当然同じ感覚で教えることはできないわけです。子供とはいえ、必ず秩序というものが出来上がっていかなくてはいけない。これらは家庭で教えるべき事ですが、今は一番しつけがされていない人たちが親になっている時代ですので、これを教室でやっていけば別の面で評価されるのではないかな?というふうには思っていました。

【未経験者でも教師になれる】
犬塚:
なるほど。市場や消費者の求めているもの、現場の中での様々な試行錯誤と作り込みによって、今のいしど式が生まれてきたということですね。現在、いしど式そろばん教室は全国に広まっていますが、教師の育成には独自の考え方をお持ちですね。

石戸会長:
そろばん教室が衰退して生徒数が少なくなった中でも、私どもは低成長ながらも伸びていました。人が足りなくなって新しい指導者を募集したのですが、よそのそろばん教室の経験者では、いしど式の方針に合わない人も出てきました。これでは、たとえそろばんの時代がまた来たとして、それに携わる指導者が増えていかないと。だったらそれほど知識や力の無い人でも、まず自分が育てていこうと思いました。
学校の先生でも同じことですよね。学校を卒業するまでは、人の教育経験は無いわけです。しかし一年も経てばそれなりの仕事ができるようになっていますよね。そろばんの先生もそれでいいじゃないかと。まずできるところから始めて、指導者そのものが子供と一緒に成長してくれればいいと。
こういった仕事は技術が必要ですが、技術は教えれば誰でも覚えられるものです。それよりもイメージトレーニングを指導することに関しては、教わる生徒側の向上心をいかに高めるかということが、私は大事だと思います。ですから指導者の技術力でなく、子供をやる気にさせる、その方法を持った指導者の方が、はるかに私はレベルが高いのではないかと思いますね。

犬塚:
確かに、いしど式の先生方は生徒たちとコミュニケーションを取りながら、うまく向上心を持たせていらっしゃいますね。

【教師は技術力よりコミュニケーション能力を重視】
犬塚:
では、実際に現場で先生方を統括している沼田社長にお聞きします。
子供の向上心を上げる方法ですが、実際にそういった褒め方や叱り方というところも含めて研修されているのですか?

沼田社長:
もちろんです。やはり教師が向上していかなくてはいい教育はできないと思っておりますので、全国珠算連盟に加盟されている方、いしど式に加盟されている方と、月に何度も研修会を開いて勉強しています。イメージコントロール法やマインドの上げ方、脳のどういうポイントを使えば記憶の量が多くなるかなども含めて勉強していて、教師資格の制度もあります。
このほか教育の部分、しつけの部分、多岐に渡ってカバーしていると思います。

犬塚:
そろばんの先生になるには、一般的には技術力を問われるものだと思いますが、その感覚が、いしど式においては違うよ、ということですね。
それが保護者の方々のニーズともかみ合って、今の成長の秘訣があるということですね。
そろばん未経験の方でも先生になるチャンスがあるということですが、採用するのに重視していることはありますか?

沼田社長:
新卒採用に関しては、そろばん経験はあまり関係ありません。内定後に始める方もいるくらいです。
そろばんは国家資格があるわけではないので、採用に関しては、とにかく素直さを重視しています。最初からできないとか無理だというのではなく、興味を持ったことに対して素直に受け入れる気持ち、努力する気持ちのある方は非常に伸びていきますし、指導者としてもいい指導者になります。

犬塚:
私は以前、会長に、そろばんの一流の先生にとって必要なのは「技術」と「コミュニケーション能力や向上心」、どちらですか?と質問したことがありましたね。

石戸会長:
技術というのは、どのくらい練習をしたかに比例します。あとはその個人の能力差、センス、いろいろなものがありますね。<>私も過去に選手の時代がありましたけども、一流選手ではなく、やっと県の代表になれるくらいの力でした。ただいえることは、昔のように練習量を多くして、俗にいうスパルタで教えても仕方がないということです。技術だけではなく、いろいろな手法を取り入れて、それを押し付けるのではなく上手に子供たちの中に組み込んでいき、いかに受け入れられるように持っていくか。これは教える方と教えられる方の信頼関係が無くてはうまくいきませんから、そう考えると先生にとって一番大切なのは、コミュニケーション能力ということになると思います。

【インターネットそろばん学校】
犬塚:
今年で創業40年、今では全国に教室をお持ちのイシド珠算学園ですが、教室だけでなく、インターネットを利用したそろばん学校もされています。
インターネットがそれほど普及してない時代に、かなりの費用をかけてチャレンジされたかと思いますが、その目的などお聞かせ下さい。
石戸会長:
インターネットそろばん学校は1999年に導入しました。
やはり自分の教えた生徒というのは可愛いですよね。そんな生徒たちが、両親の転勤に伴って引っ越していってしまうと。引っ越した先でそろばん教室に通ったのだけど、それが楽しくなかった。「もう一度いしどで習いたい」という嬉しいご意見をいただいていましたので、それならそのインターネットをうまく使えないかと。今まで教室に来ていてくれていた子供たちへのサービスとして始めました。ですから、インターネット社会に先駆け、夢と冒険を託して!というような大それたものではなかったのです。

犬塚:
なるほど。便利なツールができたので、まず使ってみようという考えからなのですね。

石戸会長:
そうですね。ですから利益が出ないから辞めよう、ではなくて、5年かけて運営経費が出ればいいかな、というぐらいの気持ちでした。
お客様は神様という言葉がありましたけども、私はその点ではお客様は先生だというふうに思いましたね。色々なことを自分たちに気づかせてくれる、教えてくれる。それに対して我々が取り組んでいけば、いい結果を生むということではないでしょうか。

【社長職を退いた意味】
犬塚:
私が長い間お付き合いさせていただくなかで一番大きな転換点だったのは、やはり社長職を譲られたことです。
前社長は会長として企業の中に残るケースが多いですが、石戸会長は本当に経営から抜けていらっしゃいますよね。今まで40年間育ててきたそろばん教室への執着やこだわりが無かったのか、とても不思議でした。現在はこの白井市にそろばん博物館を作り、地域貢献のほうに完全にシフトされていらっしゃいますね。

石戸会長:
もともと裸一貫で始めたものですから、そんなに執着心は強い方ではありませんでした。
私自身、人生は二つあるというふうに昔から考えていまして、一般のサラリーマンの定年である60歳までは生活のため、子供を育てるため、会社を大きくするために利益を出そうと。
70歳、80歳になってもずっと会社に影響力を及ぼしながら経営をしていく方法もありますが、私は自分が長く経営に携わることで私が引退した後にみんなが困るようでは、企業はうまく継続していかないと思っていました。
今後は白井市のために、ある程度の自分のお金も使いながら、街を活性化させていくことが私の生き方だろうなと。これからはそろばん博物館を基本にして活動していきますので、二つ目の人生に入るために社長職をバトンタッチしたということです。

【主婦から社長に】
犬塚:
そうでしたか。では沼田社長にお聞きします。沼田社長は、専業主婦をしていた中で入社されたそうですが、ある日突然、社長になってしまったという感じですよね。戸惑いや不安はいかがでしたか?

沼田社長:
そうですね。とにかく目の前にあることを一生懸命やってきたので、戸惑っている暇はなかったです。会長が奥様とともに築いてきて、創業40年を迎える会社ですから、それをお任せいただけるというお話をいただいたときは大きなプレッシャーでしたが、不安は無かったですね。
専業主婦になってから勤めさせていただいた会社で、本当に仕事が面白かったのです。20代の頃から教育に携わっていましたが、専業主婦になってみてあらためて、仕事に対する意識が自分の中で大きく変わりました。報酬を得るための仕事ではなくて、自分のすることがお客様に喜んでいただけて、社会のためになるということ。自分と社会が繋がっていて、その社会は教育という事業ですから、未来に繋がっていくというのがすごく実感できました。

犬塚:
そこまでチベーション高く仕事ができて、しかも会社を引き継ぐほどの責任感は、ちょっと不思議に感じられますが(笑)。そういった考えに至ったエピソードなどはありますか?

沼田社長:
インターネットそろばん学校の開発を全面的に任せていただけたというところでしょうか。入社した当時、ちょうどその計画が始まるところでした。社内で唯一、パソコンでメールができるということだけで「沼田さんやってごらんよ」とお声をかけていただいて。
いま考えると大きなことですよね。まだ多くの企業がホームページをやっと持ち始めたばかりという時代に、インターネットのeラーニングの事業を一から構築して、どんなシステムを使うのか。完成した後は、それをどう市場に広めていくのか。仕事でなければできないと思いますし、自分一人では当然できませんし、そういう環境とチャンスを与えてくれたのは、これはおもしろくないはずがないです(笑)。

犬塚:
素晴らしいですね。それが最終的に会社を任せるというところにたどり着いたと。

沼田社長:
そうですね。目の前のこと一つひとつが自分のミッションになっていって、「新しい事業やろうか」「はい!」「次はこれやろうか」「はい!」「社長もやってみようか」「はい!頑張ります!」というような感じでした(笑)。

犬塚:
会長としては、肉親以外に社長を任せるということに不安は無かったのですか?

石戸会長:
無かったですね。歴史的に見ても、血縁者に任せるのではなく実力がある人に任せた方が会社はうまくいくと。ですから子供に譲るという考え方は、初めから持っていなかったです。

犬塚:
つまり会社が好きで、そろばん教育に情熱を傾けられるかたが、沼田社長だったということですね。
事業継承も無事終えられて、いま2年目ですね。業績のほうも順調ですね。

沼田社長:
おかげさまで、その点についてはすごくほっとしています。

【地域貢献(1) ウォークラリー】
犬塚:
石戸会長は第2の人生として、そろばん博物館を中心とした地域とそろばん業界への恩返しを考えていらっしゃいますが、地域貢献の取り組みとして、ウォークラリーを開催されましたね。これには何名ぐらい参加されましたか?
石戸会長:
去年は約400名が集まりまして、この街始まって以来の人が出たといわれました。今年は500名以上を目標にしています。この街は千葉ニュータウンの中にあり、人口は減少していませんが、いつの間にか高齢化してしまっています。
そろばん博物館のある白井市復という所は、もともとこの街の中心地でした。しかし今ではお店もどんどん閉鎖してしまい、過疎化が進んでいます。こういう地域は外から人が遊びに来てくれるような、または故郷を懐かしんで帰ってくるような要素がないと、いつか破綻してしまうという状況が、いま日本全国でみられ ますよね。ですから自分の今まで経営してきたやり方や考え方が、街づくりにどう活かせるのか、これが今とても楽しみです。街から出ていってしまった若い人 たちに「この街も、なかなかいいぞ!」と思ってもらえれば本望ですね。

【地域貢献(2) 見て触れる「そろばん博物館」】
犬塚:
そろばん博物館についてお聞かせ下さい。かなり古い物もあるそうですね。そろばんは、いま何点ぐらいありますか?

石戸会長:
そろばんとそれに関連する書籍、自分で作った制作物を含みますと1000点近くになります。だいたい江戸時代以降のものが揃っています。人から見ると何の価値もないガラクタかもしれませんが、私にとっては宝です。そのうち100点ぐらいは頂き物です。家庭で捨てることになったそろばんを「捨てるのはもったいない。ここに持って来れば、なんとか生き返ってくれるんじゃないか」といって持ってこられる方もいます。
普通の博物館はショーケースの中に展示品が入っていて、それを静かに見て回りますよね。そうではなく、この博物館の中にあるものは全部触れるようにしています。そろばんは木のぬくもりが魅力ですから、触って初めて良さが分かると思うのです。たまに壊れることもありますけれど、それで結構。また私が修理して展示しています(笑)。
普段は自由研究などで学生が訪れるほか、近所の方がお茶を飲みに来られたりしています。楽しいご隠居さん生活が私の第2の人生です。

【そろばんの未来】
犬塚:
それは楽しみですね。では、いしど式そろばん教室を任された沼田社長、今後の未来戦略として、どういったことをお考えですか?

沼田社長:
株式会社イシドとして、私は3つの戦略を立てています。1つ目はまず、そろば ん業界のパイオニアになること。自分達が先駆者として、そろばん教育をどう伝えていくかが私たちの役割だと思っています。2つ目は、そろばんの世界戦略で す。世界の90%が貧困層といわれていて、その貧困から抜け出すためには、やはり読み書きそろばんなど基礎の教育が絶対に大事です。

世界の国々発展途上国 を含めて、そろばん教育を普及していけたらと思います。3つ目は、IPO(株式公開)を目指していきたいと思っています。これは利益の追求ということではなく、日本のそろばん文化を守っていく私たちの立場、企業が上場することによって与える社会的な影響の大きさを考えて、実現に向けて邁進していきたいなと思っています。

犬塚:
これほど一つの分野に真摯に向き合い、磨き上げてきたスクールの事例は珍しいと思います。収益性や合理性、効率性のほうに流れていき、どこかで歪んでしまうことが多いなか、イシド珠算学園においては、基本に忠実に、あるべき姿を追い求めていき、それによって会社自体も良い方向に向かったと。事業継承は実力があって仕事に一番情熱を傾けられる人材の中から選ぶ。この考えのもとに実行され、今のような成功に繋がったのだということを見せていただきました。
今日はどうもありがとうございました。

株式会社イシド

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